海峡/たもつ
理髪店に備え付けられた
平方根の中で眠る犬
その耳に形のようなものがある
店主はただ黙々と
軟水で精製されたハサミを用いて
僕の髪を切り分けていく
その間、僕は不慣れな手つきで
操舵輪を操らなければならない
海峡の一番狭い場所にさしかかる
お願いしますよ
店主がつぶやく
切られた髪が足元にしんしんと降り積もる
やがて窓の外へと風に運ばれていく
何かと間違えた海鳥が
それらを追いかけて飛ぶ
順番待ちをしている男の人が
いくつものセミの抜け殻を
粉上になるまで握りつぶしている
ごりごりとした音が
直接頭の中に響き始める
ハサミは頭蓋骨に到達したらしい
お願いしますよ
店主が再びつぶやく
世の中にはこのようにして
生計を立てている人もいるのだ
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