椅子が記号になるために/乾 加津也
わたしの名は「誠実」、からむ蔦、めしべの棺、花をちらす雨季の停滞、主宰者のひたいにこぼれるしるしのようだった、執事のトルソ、息は茜色をして、椅子にちかづく、わたしの名は「誠実」
椅子をつくる、つとめが、それ
らしい、白樫の綿埃を吹くはじめ、雨にさらされた、濡れしみの、粗末な一人掛け、もしわたしがわたし以外のことにかまけていればこれから先も気づくことのないほどの、それはどうでもいいもの、の、わたしだけの
そっと背もたれに耳をあてる、未完の五線にぽつりぽつりと音符はしなだれていた、乾いているようだった、リサイタルの調弦に、こまくが共鳴する、楽器だった、木のうえからすずなりのすずめ
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