しみ/豊島ケイトウ
(私はいつも仰向けで寝入り
決まって仰向けで目を覚ます)
その日天井のしみは、妹のクラスメイトの顔だった
昼下がりに学校を早引けしたきり妹は姿をくらました
(私はいつも仰向けで寝入り
決まって仰向けで目を覚ます)
その日天井のしみは、母のピアノ教室の生徒の顔だった
夕方に買い物に出かけたきり母は姿をくらました
(私はいつも仰向けで寝入り
決まって仰向けで目を覚ます)
その日天井のしみは、父の会社の部下の顔だった
夜に打ちっ放しに行ったきり父は姿をくらました
(私はいつも仰向けで寝入り
決まって仰向けで目を覚ます)
その日天井のしみは、私の知らない中年男性の顔だった
朝に家を飛び出したきり私は姿をくらました
(三日後に私たち家族は正座した恰好で並んで近所のゴミ置き場に捨てられていた
首を奪いとられたまま
それでも愉快そうに肩を揺すりながら)
私は今でも仰向けで寝入り
決まって仰向けで目を覚ますが
だからといって物事がはじまるわけでも終わるわけでもない
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