サインバルタ/佐藤伊織
 
達はたまねぎの皮であることを知ってしまっているから。

僕の一時的な回答は、この世界に没入すること、一所懸命その役になってみること、くらいだ。誰かが存在の神秘をみせようとするなら、そこから背を向けることだろう。これじゃまるで社会人の新人への説教そのものじゃないか。何事も本気でやれば面白いこともある。生きることは苦痛だ。


記憶は円環である。つまり記憶とは未来を夢見させる装置だ。だから私達は治療の過程で記憶をなくしていく。未来を孕む過去を消すために。

誰も記憶しなくなった過去は存在するか?

誰もしゃべらない言葉は存在するか?

言語以上の言語は存在するか?

未来の先
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