浮かんでは消える。/かいぶつ
から取り出したのは
去年の冬、コカ・コーラを買ったときに
景品で貰ったペアグラス。
そのグラスは冷たい飲み物が注がれると
透明なはずのガラスに
白くまのキャラクターが浮かび上がる細工がしてあって
それをもの珍しそうに眺めながら
描き出された白くまを、もう一度、眠らせてやろうと
君は空にしたグラスを両手に収め、体温で白くまを消す遊びに
夢中になっていた事を思い出す。
グラスに発泡酒を注いでゆく
君はまた白くまを待ち侘びるようにグラスに注視する
しかし発泡酒がすべて注ぎ切られても
白くまは姿を現さなかった。
肩すかしを食らった君のつまらなそうな目は
発泡酒を一口含んだ瞬間つぶらな象の目になって
ただ一言、小さく
「マッズ。」
と呟いた。
長いあいだ歩き過ぎたことを後悔しつつ
グラスには口を付けずに、浮かんでは消える
炭酸の泡を眺めている
今夜は少し冷えるから風邪をひいちゃいけないと
君が布団と毛布を床に下ろしたとき
屋台で貰った、なないろの紙風船が
宙に舞った。
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