刃物を握るあの子/高島津諦
くて、だから自分を傷つけてでも切りかかるのだろう
けれど、その間違ってるってことの基準が、突き詰めればあの子個人の感覚でしかない
世の中の多くの現象や人間を、あの子は、間違っている、と感じてしまう
でもそれは、世界の方が間違っているのか、あの子の方が間違っているのか、わからない
少なくとも、最大多数の最大幸福みたいなお題目を信じるなら、あの子は刃物を振るうべきじゃあない
長いものには巻かれるべきだ
多分あの子もそれは分かっている
頭のいい子だから
けれど、あの子はそこら中に切りかからずにはいられない
あの子にとって、それを無くしたら、あの子ではなくなってしまうのだろう
本当に、面倒くさい
それでも、私はあの子を見捨てない
見捨てたくない
仕方ないじゃないか
あの子のこと、好きになっちゃったんだから
いつか私が、切り殺される、その日まで
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