空を仰ぐ。/有邑空玖
透明な言葉を食(は)み
壊れかけた空を仰ぐ。
春の木洩れ陽
真夏の夕方
秋のそよかぜ
真冬の午后
一年は短くて遠い過去だ。
ピアノの音ももう聴こえない。
同じ春など来ないし
あの秋はもう繰り返さない。
忘れてしまおう。
雲の合間で歌っているんだよ。
そこからここはよく見えるでしょう?
君と出逢った春
君と過ごした夏
君が消えた秋
君のいない冬
たとえば神さまがいるとして
別れがあるのはなぜ?
同じ夏など来ないし
あの冬はもう越えられない。
忘れてしまうの?
空の向こうで笑っているんだよ。
ここからそこはよく見えないけれど
君の透明な言葉を食み
壊れかけた空を
仰いでいるから。
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