銀河鉄道/青井とり
車窓を流れる景色を
ぼくはだらしなく
ぽかんと口をあけたまま見ていた
「あれが、ベガ」
「あれが、アルタイル」
向かいのおじいさんが
皺くちゃの指で硝子をつつく
どれがどれなんてさっぱり分からないから
「なるほど」
とだけ言っておいた
おじいさんは少し気を悪くしたらしく
ごほん、と 偉いひとがするみたいな咳ばらいをして
「きみは無知を知らなくてはならないなあ」
だなんて
どっかの哲学者の言葉によく似た
“かくげん“を残して降りていった
次に向かいに座ったのは
地球みたいな目をした
きれいな女の子で
ずっと俯いているから
「具合でも悪いかい」
ぼくがそう声をかけても
ずっと俯いているから
思わず肩に手をかけると
床に溶けて消えてしまったから
ぼくは不思議に思いながら
車窓を流れる景色を
また ぽかんと口をあけたまま見ていたのだけれど
ああ、そうか と
ようやく気付いて
誰もいなくなった車両から
最後の一歩を踏み出した
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