満ち潮のように/殿岡秀秋
 
ああ三級ならころっとおれは負かされるよ」

クラスの子どもより強くなりたい
小学校でおびえなくてすむように
それに叔父よりも強くなりたい
ぼくは家でもっとも弱いものから抜け出せるように
でも遠い先だとわかり
ぼくは空想の中だけで強くなった

子どもの願いは
満ち潮のように
盛りあがり
うねりながら
海草のようにゆれるぼくの胸にまで
おしよせる
そのたびに
何かを習おうとしては
波が引くように
やめることをくりかえす

黄色い菊の花を垂らしたように
夕昏の路地に明かりをのばしている町道場に

ぼくはいる

合気道の稽古をしながら
子どものころのぼくが
躰のなかで
転がったり
跳んだりして
全身で生きているのを
半世紀経った細胞が感じて
二人分の汗をかく

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