自分の手を離れていった手紙のことについて/因子
ひとりきりになると
蝋をとかす匂いが
わたしの気道をふさぐので
雑踏をさがしに行きます
なんでもないふうにして
ポストへ落としたのだけれど
だけど、まだすこし
わたしの指にひっかかりをのこしている
たったひとりを心にとめて
便箋を探したし
封筒を探した
はやく書いてしまわなければ
はやく手放してしまわなければ
ばらばらになりそうな
熱をもってふるえているわたしたちを
おしこめて放してしまわなければ……
息をしている
封蝋の匂いをさがしている
もう ない
嘆息は一回
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