液晶(911)/はるな
 
空を引きずり
波を止め
人を変えた
いくつもの声が
きえた

さかい目のような悪夢を
人々はみた
それでも
悪夢のような日常には
すぐに慣れる

都市の陰欝を
打ち抜くように
突き刺さったかたまりに
歓声をあげたあとで
我にかえる
あの日に
わたしたちがみたのは
現実の割れ目だったのか

ため息が結露をうむ夜に
みている薄い液晶
現実をひらたくして
伝えているようだ

向こう側も
こちら側も
同じように血が通っているのに
それをどうしたら確かめられるだろう
声も
色も
届いているのに
触れない

にぶい痛みを
繰り返す映像に与えられても
わたしたちは慣れるべきではない
わたしたちは誰も痛みに慣れてはいけない

何度も
繰り返し
遠い色を抱いて
かじかむ体に温度を通わせなければならない


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