割烹着/板谷みきょう
ほんのさささいなことで
まほうびんをわってしまった
あの頃は
長屋の辻にある共同の井戸に
水汲み用の手押しポンプがあった
木綿の濾し袋が先に付いていて
最初に水を汲むには
呼び水を入れなければ出てこなかった
ガチャガチャと空音が続くと
母が誘い水を入れてくれて
ほれほれ、さぁさ。
みきょー。がんばれ。
ガチャガチャに続いて
暫くすると
ザブザブと水が溢れ出た
母はその水を金だらいに入れて
薄暗い台所で米を砥いで
釜でご飯を炊いていた
父がいつまでも冷めない魔法瓶を
買って帰ってきてから
随分と重宝になったと嬉しそうに
母は近所のおば
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