腕から先のゆめ/乾 加津也
 
その日の美術の科目は
自分の
もう片方の腕のデッサン

 写実主義の鉛筆は
 大気の成分のようにすみきっている
 大陸棚から
 波紋のようにそそりでた喜望峰にゆきつけば
 五指しめす照準 むすぶ理念は青臭くも気高い
 真珠貝にダイブした手首
 は
 海流のしたたかさで
 アポトーシスに呼吸を与えはじめていた

それがいま
生活におわれ 思考も与えず
これをひたすら隷従させていたりする
それでもぼくらはいたずらな毎日を繰り返しているのではない
ただ少し
自分の腕を
(信じる奇跡を)
後回しにしているだけだ


◇ ◇ ◇


 防空上ノ必要ニ鑑ミ
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