ラコステ遊(すさ)び/salco
 
行ってっと、また後で泣く羽目になんべよ」
郷里の母の声がふと聞こえる。それで思い直してみると、私には郷里も母も、泣く羽目になった憶えもないのだった。

しかしワニの意匠など好きになれない。反射的捕食に生きる動物のどこに擬人化の余地があるのか。その暗喩さえろくでもないのに、と理解に
苦しんでいる。まさに台なし。忸怩、遺憾、断腸の思いにまみれてしまう。
ワニは噛む。虎目石のような目をして、必ず噛む。そのポリシーに甘噛みはない。歯列通りに穴が開く。振り回され、嚥下される。コモドオオ
トカゲ同様、ティラノサウルスの脳なのだ。アッタマ悪い爬虫類のくせに強大であるから、猛毒も有さない。天下無敵を生
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