炎のドレス/薬堂氷太
とポケットの中に燻ぶる何かが残るだろうねそうまでしてドレスが消し炭になって開放された裸の君を攫(さら)う勇気はないよ誰の気持ちも考えてないただの僕の独りよがりなんだからなんて想い馳せながら地面を踏みつけつつとうとうこの場所まで来てしまったのだからきっと今まで通り何も変わらず3人足をそろえて歩いていくんだと思うよ街の雑踏の中に塗(まみ)れて人間臭くなっていくんだと思うよそしてたぶん僕はその雑踏に紛れて気づかれないように君と手を繋ぎたいという胸の燻ぶりを何度も踏み消してゆく覚悟をしたからここに居る訳であってここまで来るのに自分でも気づかない内に沢山の何かを汚れた靴で踏み躙(にじ)ってきた僕だけど結局最後に僕が踏みつけたのは君の裾じゃなくてピアノのペダルで
今、この瞬間 鍵盤に泪を落とさないように 必死だよ
戻る 編 削 Point(2)