口笛についての/たりぽん(大理 奔)
 

口笛についての十箇条
という本を手に取る
森は今日も図書館だ
また迷い込んでしまう
薬研堀の夜景は夜飛ぶ鳥たち、の巣
漏れ出したようなかすかな星空よりも
営みの湿気をまとった森の夜光虫たち
頁をめくりながら獣道を踏みしめて
歩き煙草の煙にむせる

もう生きているかどうかの自信がないので
とりあえず一番綺麗だと思った花に
少し水を注いでみると
今日が明日にかわるのを
感じることができるかも知れない
それでからだを取り戻せるなら
そんなに嬉しいことはない

また頁をめくる
図書館がいつの間にか
場末の万華鏡になってしまったので
ぐるぐると
本を頭の上で回してみる
今日の口笛は六箇条しか守れなかったけど
どうだろう
漏れ出したようながなり声よりも
夜飛ぶ鳥たちの
さえずりのように聞こえないだろうか

そんなものだろ
そんなものだろ





戻る   Point(5)