夏なつかしく秋になく/木屋 亞万
空っぽにしよう
秋が来るんだ
カラカラと燃やそう
濡らすような火で
じゅわっと焦げが
しわしわの紙を燃やすように
水分補給はもうしなくていい
いらないものは切り捨てて長袖を着る
お湯の前でしか肌は見せない
枯れた赤に身を包んで
熟れた実の甘い雫を
裂け目からだらだら垂らそう
秋の準備を始めよう
積乱雲を存分に乱れさせて
秋刀魚の鱗にしてしまおう
虫があからさまに求愛している草むらを
空気の抜けた自転車でガタンゴトンと走ればいい
何もしない夏のまま
秋になったからと言って
涙を流す必要はない
誰かを見つけないといけなかったような予感が
すっかり忘れられた夏休みの宿題のように
暮れてしまった季節の方角から漂ってくる
私はもうその人と出会ったのでしょうか
どうするのが正解だったのでしょう
南から嵐の気配だけが感じられて
心がざわめく夏の終わり
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