くちづけ/ベンジャミン
 
何かをこらえるときに
下くちびるを噛むせいで
わたしのくちびるはいつも痛んでいる

本当に痛んでいるのはきっと
こころというものであるはずなのに
わたしはわたしの痛んだくちびるの
その細胞があげる叫びを聞くこともできない

晩夏は静かに虫の音を奏でる

そんな夜でもわたしは
痛んだくちびるの痛みに思いをめぐらして
本当に痛んでいるこころをそうやって置きかえている

そうやってきたのだもの
ずっと ずっと そうやってきたのだもの
だからって簡単にこころというものの声だなんて
この晩夏の夜に鳴く虫の声のようには聞こえないんだから

ひどく冷たい氷水をつくりました

痛んだくちびるをあてて
透明なものにくちづけをする

そのとき少し驚いたところに在るのですか?
わたしにはまだわかりません

けれどひどく冷たくなったくちびるが
たしかに何かにくちづけするのを
わたしはそっと感じるのです
 
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