物語。/薬堂氷太
長い夜を経て
日差しで爛れた身体を
両手で抱きしめ守りながら
逃げ帰った部屋の片隅で
地平線に日が喰い殺されるまで
私は本を読み漁る
虚構に我が心を置き
現実を夢で誤魔化すために
無意味に多い雑踏は
私の感覚を鈍らせ迷わせるだけだから
それを減らす勇気も
それと戯れる術も
私は持たないから
逃げた最果ての黒い椅子の上
そこで私は虚ろな瞳で
草臥(くたび)れた頁(ページ)をめくる
1つ また1つ
そこに刻まれた陳腐な物語に感化する
私の愚行を許してほしい
さようなら 世界にはもう会えない
すでに 私は序章で諦めている
こんにちは 木偶(でく)の夢
ついに 私は終章の頁(ページ)をめくる
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