ピンクのアーチ/葛西曹達
 
玄関を開ければ
工事中のタワーが見える
無機質にそびえ立って
うまく世界から浮いている

ピンクのアーチは
今もあるだろうか

環七通りの廃棄ガス
たまに吸いたくなって
夜風の吹く中を
ひとり歩いていく

人の歩幅 車の流れ
瞬く光 濁った月
腐った心の片隅から
何かを呼ぶ声がする

ピンクのアーチは
今もあるだろうか

何の変哲のない異物に
鳩のフンがこびり付いたり
思い出が詰まっていたりして

今日もあのしかめっ面は
元気でいるだろうか
会いたくはないけれど
無事は祈ってみる

ピンクのアーチは
今もあるだろうか
僕の故郷には
何にもありません

ピンクのアーチは
今もあるだろうか
帰る場所はなくても
心を満たしておくれ
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