やつあたり/佐々宝砂
 
きみのせいで夏が終わらない

扇風機がかきまわす生温い空気のなかで
今日六杯目の焼酎を呑む
ツクツクホウシが鳴き出して
もうとっくに朝だということは自覚している
ついこのあいだまで
わたしを心地よく酔わせていたものは
いまやわたしを取り巻く鎖となり
檻となり
六杯目の焼酎となり
どうしても伝わらない情緒は
檻のなかで溶け
原始わたしは太陽だったかもしれないが
いまわたしは月でさえなく
ヒカリキノコバエですらない
せいぜい咥えた煙草が光る程度である
その光だってこの陽光の中ではよくわからない
どうしてこんなに明るいんだ と
太陽に向かって怒ってみるが
八月終わりの朝七時半なので明るいのもやむをえない
世界がこんなに明るいのはやむをえない
だってきみがいるのだからしかたない

きみのせいで世界はまだ終わらない
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