三軒目の鴉/小川 葉
 
 
 
真夜中の渓谷で
岩魚を突いた
むかし父とよく来た川だ
腹が減っただろうと
父は登山ナイフで
魚肉ソーセージを切り分けて
私にあたえた

あの日は二十尾とれた
まだ足りない
私はかたっぱしから
岩をひっくり返し
岩魚を突いた
突いても突いても
足りなかった

ふたたび父が
腹が減っただろうと
魚肉ソーセージを切り分ける
私はいらないと言った
父は笑って
その肉切れを川に捨てた
すると
数えきれないほどの鴉が
小さな肉切れに群がった
こんな真夜中に
まだ起きて遠くから
狙っていたのだ

祖父が建てた家を
父が建てなおした
私はそ
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