ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
客が来るのか不安で、手が震えてうまく体がふけなかった。ブラッディーマリーを床にこぼしたまま……蛾のブローチで巻き髪をゆいあげて、耳が半分かくれるぐらいに留め金を差し込んで、半びらきのくちびるで、
「一生死ぬまで一緒にいるんだから一日でもそばにいないとさびしい」と、ひとりつぶやくそんな女、母山多義子は。
 ……凛はしばらくもぞもぞとしていたが、
(僕には彼女にアプローチする資格がない、フリーターだ、ただの、だけど僕は人生で成功する前に彼女と結ばれたい。じゃなけりゃ、彼女が僕の何に惹かれたのかわからなくなってしまう。僕自身に惹かれずに僕に付随する属性に惹かれただけにすぎないのかと、疑ってしまうか
[次のページ]
戻る   Point(0)