ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
書をもってこようがだ、ギゾウだ!」
そんな情景は露と消えてしまう。プレハブの窓が開くことによってだ。
「なにをごちゃごちゃわめいてるんだ貴様ら! 朝っぱらから!」
グリーンの作業服をいなせに肩にかけて、まだ着ていない半裸体のおやじが叫んでよこした、目やにでひらかないまぶたのまま。何も見ずに。
しなだれている茎の先に2つの求めあう魂が結びついて花が咲いている。それは現実ではさまざまな障害にあって実らなかった恋人たちの子供。それは愛、わけへだてのない。1兆年たっても、電車で隣同士乗りあわせただけの赤の他人で終わろうとも。
猫背が気をもんで、
「ブラック無糖なんていきがってるだけだ」
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