ジュリエットには甘いもの 後編/(罧原堤)
 
、売られたり、そういう目にあいかねない」
「そうよ! それだから私は……」
「待つんだ、多義子、彼にきみのことを紹介しておいたほうがいいだろう。これから何かと一緒に行動しなければならない運命のようだからな。渋谷明くんだったね。名札から察するに」
 渋谷は顔を赤らめて、しどろもどろになって、自分の胸ポケットの上に刺繍されてある渋谷という文字をみつけて、「あ、ちっ、なんで母さん勝手にこんな刺繍するかな……」と、呟く。
「はっはっは、いいお母さんじゃないか。明くん、この女性はね、母山多義子さんという名前でこの世界の人間じゃないんだ。ある洞窟を抜けてこのおもちゃ街にやってきたらしいんだが、どうも帰
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