追いかける声/乾 加津也
 
だけ
ボクはオトナになったんだ
あなたと同じ世知辛い世の中ってことばもね

どんなに階段降りてったって
なにも始まりはしないんだよ
どこから見てもあなたには
パトラッシュと一緒に少年ネロを囲んでたたえる
天使たちもいないよ
ビルの谷間の筋交い通りは階級ネコらのテリトリ
縄張りだってあるんだよ
社会は雨よりしみこんで
あなたは自分で背を向けたんだ

朝日であたりがぬくみはじめて
今日も肌着をあたらしくする頃
ボクは風をつくって走ってた
でも それから少しだけブレーキを効かせたのは
そんなあなたからの声が
聞こえたような気がしたから

  傷つけ青年
  めいっぱい傷だらけの生き恥もって
  こんなオレにも見せてみろ!って
  いままで聞いたこともないくらい
  太くやさしい大地の声で追いかけてきて
  なんか しかられてるような気がしたものだから

だからいつか
(憶えていてくれてたらでいいけど)
あの日の千円かえしてよ
ずいぶんたったから利子もつくけど
かっこわるくて汗臭い
武勇伝でもいいとおもうよ

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