追いかける声/乾 加津也
 
もう見慣れたものさ
のんだくれの青空ベッドなんて

誰も起こしたりしないよ
シャツの下ボタン肌けて仰向けに
観音菩薩の表情(かお)はいまも石川さゆりの膝枕なんだろうけど
酒やけで毛穴全開サボテンのような無精ひげが痛いよ

  中学生のボクは登校中に呼び止められた
  「おじさん帰るバス代がないんだけどくれないか」
  こずかい千円すべて渡してあげたのに 一言
  「そう、・・・いいことしたね」と母にほめられただけ

ここじゃ誰も起こしたりしないよ
ネオンと客引き さびれた夜の盛り場だからね
飲み屋の壁は薄黄色 縦じま模様の通りだもんね
いまは通勤自転車で毎朝通るだけ
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