ピアノ協奏曲「月光」/石川敬大
光に目を凝らすと
色彩が失われ
あらゆるカタチはこわれている
ひとつの塊にしかみえなくなっている
蠢くものの姿がみえない
ほかと選別できないから言葉がうかびあがらない
そっと目をつぶる
そしてひらく
そんな個人的な行為だけで
それまでみえなかった
カタチなく蠢くものたちに輪郭がうまれる
*
ぼくは
階段をまた一歩
ながれの方へおりたところだ
おりてしまった地点で
凍りついてしまう
儚い存在だ
*
記憶のなかにしかない夕陽
涼し気で水っぽい金魚みたいな木橋たちを
何度も
つかまえては手放してきた
夜目を凝らすと月光があざやかだ
傍らで眠る
もう若くない女の横顔だって
おさな子にしかみえない
すだく虫の声
ゆっくりと引き臼がまわされている
風がたちあがった
ほら
ここにまで
月光の
せせらぎがきこえてくる
戻る 編 削 Point(21)