ピアノ協奏曲「月光」/石川敬大
 



 光に目を凝らすと
 色彩が失われ
 あらゆるカタチはこわれている
 ひとつの塊にしかみえなくなっている

 蠢くものの姿がみえない
 ほかと選別できないから言葉がうかびあがらない

 そっと目をつぶる
 そしてひらく
 そんな個人的な行為だけで
 それまでみえなかった
 カタチなく蠢くものたちに輪郭がうまれる

     *

 ぼくは
 階段をまた一歩
 ながれの方へおりたところだ
 おりてしまった地点で
 凍りついてしまう
 儚い存在だ

     *

 記憶のなかにしかない夕陽
 涼し気で水っぽい金魚みたいな木橋たちを
 何度も
 つかまえては手放してきた

 夜目を凝らすと月光があざやかだ
 傍らで眠る
 もう若くない女の横顔だって
 おさな子にしかみえない

 すだく虫の声
 ゆっくりと引き臼がまわされている
 風がたちあがった
 ほら
 ここにまで
 月光の
 せせらぎがきこえてくる





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