血と冬(わたしとけだもの)/木立 悟
 


あなたの
黄金の背の裏側の
やわらかな音が風をわたる
浮き沈み
絡み合い
陽のにおいに波打つ



雨ではない雨
雨のままの雨
けして閉ざされない湿り気として
地平線と水平線の狭間を行き交う



あなたの
古い血の額が風に触れる
枝を流れ落ちる蒼と灰
一文字ずつ剥がれてゆく頁
聞こえない音を放ち
けだものは雲をかき混ぜる



主のいない蜘蛛の巣が
たくさんの光にはためいている
林だけがまだ濡れていて
金に 白に 金に 白に
いそがしく冷たさを塗り分けている



路の向こうに空は昇る
音は砂と雪を埋める
一枚の葉をふちどる泡が
原の赤い輪郭を伝い
けだものの背に伝わってゆく



あなたの
かつて触れたことのある色が
いつのまにかわたしの手のなかにある
温かな地を
冷たい地を歩んできた背が
ひらきつづける頁のように
短い晴れ間の光の下を
わたしとけだもののかたわらを過ぎてゆく







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