音のない洞窟/吉岡ペペロ
 
ング中のクルマは減ってセミの音だけが木漏れ日に降っていた
けれどシンゴはきのうの夜感じた感覚のなかにいた
そして音楽を耳に思い出していた

ヨシミの声を口に手をあてて聞いていた
シンゴのとなりに体育ずわりをしてヨシミが覚悟や逡巡をしゃべり続けていた
男の歌うファドが繰り返しながれていた

ああ、そうなのか、

シンゴにはなにがそうなのか、なにがそうではないのか分からなかった

ああ、そうなのか、シンゴは不可思議な平穏のなかにいた

シンゴはある感覚のなかにいた
音楽は始まっては終わり終わっては始まりながれ続けていた

木漏れ日がさっきより濃い黄色になっていた
ほどけた風が吹いていた
木々のセミの声のなかにいた

音楽が鳴りやむたびシンゴは音のない洞窟からからだごと出られたような気がした









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