注視/はるな
たくさんの知らない人々と同じ電車に乗る。電車横転せず終点。降車し階段を下りる、42段降り左折のち道路を横断する。夏が四十五度に傾いて立っている。わたしにはわかる。人々は気付かないふりをしている。気付かないふりをし続けた結果、気付かない才能を手に入れる。曲がり角で、男性が手を振っている。それを注視しながら通過する。手を振っている男性は奇妙な顔をし、すぐに怒鳴り始める。わたしは注視しながら通過する。通過し続ける。それよりほかにない。物事はわたしのうえを通過し続ける。わたしもまた、物事のうえを通過し続ける。すり合わせようとすると齟齬が生じる。だからいちいち立ち止まってはいけない。わたしはふと気付く、多く
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