透視図法/佐々宝砂
家族愛はすべてこれを禁ずる。
愛は諍いの源であり、
家族を無謀にも守ろうとするときの愛こそは、
もっとも危険な諍いを生むからである。
落ちてゆく者は、
落ちるがままにとどめる。
かれを助けんとする者は罰せられ、
短縮法のひずみに囚われる。
かすんでゆく過去は、
かすんでゆくに任せる。
それらを強引に明らかにしようとする者は、
消失点の彼方に葬り去られる。
うがった物言いは賞賛されるべきである。
大きな嘘は大きいほど賞賛されるべきである。
嘘は諍いを生まぬ。
真実は諍いの源である。
透視図法の国家に真実は存在しない。
あるいは存在を認められない。
本来は透視できぬものを透視する虚偽によって、
透視図法の国家は成立する。
再び言う、
家族愛はすべてこれを禁ずる。
何者も守ってはならない。
この言葉もまた、
守られてはならない。
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