時代/たもつ
階段の気配がする海岸通りを
古めかしい山高帽の
大男が歩く
ふいに倉庫の角を曲がると
夏は男を見失ってしまう
+
本の敷地に生えた
時計草の実を半分に切る
それが今日の優しさの基準
明日もまた知らない人と
話さなければならない
+
両方に手すりがあって
どこかにあるはずの
台所が見あたらない
干からびたネジのすぐ側で
木の列はどこまでも延びる
+
列車に乗ったたくさんの目が
小さな駅を通過していく
そのような時代が幾年と続き
その間も人は
草刈りに余念がなかった
+
殻を破って耳が孵化する
すべての生き物の言語が
沈黙を始める
保育園の狭い庭では静かに
人々が好きな遊びをしている
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