そうして夏は行ってしまった、翼竜の化石のように/ホロウ・シカエルボク
ドアを閉めた途端に泣声が消えた気がした、きっと見た目より遮音性に優れた造りなんだろう
ホテルを出るとすぐに帰る気がしなくなって
港の方へ歩いて行った
潰れたカフェの立て看板に隠れた物陰で
ティーンエイジャーらしきカップルがペッティングをしていた
「ああ、最高よ」と
まだ化粧の仕方もよく判っていないような娘がムードたっぷりにそう言った、彼らは誰にも見つかっていないつもりでいるようだったが
そのカフェに面したアパートのトイレの小窓からマスターベーションの音が聞こえていた
どうしようもない、適度なカップル、適度な行為
スキャン、コピー、ペースト、プリントみたいな、プロセスしか繋がれないこの世のことわり
所詮は物陰で知らない間に埋め込まれる遺伝子さ
ねえ、サマーゴーン、サマーゴーン、お前は行ってしまった、入道雲がため息をついた夕暮れの水平線の向こうに
次の波が来る前に口笛を吹くよ、チェットベイカーみたいに細く長く
また新しい誰かが
不思議な色の餌を砂浜にばらまく前にさ
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