四谷見附のひと/恋月 ぴの
け入り
古びた木造アパートの1階角部屋だった気がする
招き入れられるままにお香の香りする六畳と三畳の二間
埃ひとつ落ちていない整然とした床の間には
太刀と脇差の一対が飾られていた
彼とは単に友人と呼べるような関係だったのか
恋人同士であったと肯定できるような素振りは微塵にも無く
それでも、ある一時期、彼の潔さというか
生きることへの諦念、考え方そのものに惹かれていたのは確かなことで
由緒ありそうな小さなちゃぶ台にふたり向かい合い
手土産の和菓子などつまみながら彼の煎れてくれたお茶をすすった
あの日は蝉が盛んに鳴いていた覚えがある
興に乗り構えた太刀の
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