その教師は間違っている/殿岡秀秋
 
声はどんどん大きくなってぼくを包む。ぼくは両手で耳をふさいでだれもいない男子トイレにうずくまった。

父兄面談

ぼくが大人になって家に帰ったときだった。母がぼくの荷物を片づけていた。そしてポツリと語った。
「貴方の担任がね。私にお店をやめろというの。仕事のせいで貴方が落ち着きがないと言われたの。あのときはまいったわね」
そんな会話があったことを、二十年を経てぼくははじめて聞かされた。ぼくの気持ちをわかってくれて代弁してくれる教師がいたのか、とそのときはおもった。
ちがう。担任は騒がしい子どもたちを手前において監視しようとした。担任にとって目障りなぼくの動きを封じたかった。そのために、親の仕事をやめさせようとしたのだ。
子どもが落ちつかない原因が母親の仕事にあるなら、どうすればいいか、母親とともに考えようとはせずに、子どものぼくには「立派な職業じゃないの」と言っておいて、母親には「子どもに落ち着きがないのは、貴方の仕事のせいだ」と言った。
その担任の教師はいつも水玉のワンピースを着ていた。


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