新大久保の女/はだいろ
 

ぼくは、じぶんじしんになろうとしたんだよ。
お父さん。
あなたにじまんの息子だと、
思ってほしかったんだ。
でもそれは、
あなたがぼくにのぞむような、人生のなかでのことじゃない。
ぼくじしんがのぞむ、
ぼくが正しいと思う、
ぼくが美しいと思う、
生き方の中でのことだったんだ。


それが果たせないまま、
父がボケてしまったら、
ぼくは、
じぶんのこころのなかの暗闇を、
もうふさぐことはできなくなるかもしれない。
どうやって、じぶんじしんになったらいいのだろう。
いつまで、
こんなに、息苦しくあえいでいたらいいのだろう。
まるで、
19歳の浪人生のままだよ。


Cちゃんは、
もうすこし、世の中のひとが、
あとすこしだけ、親切だったらいいのにね、と言って笑った。
歯の上で、矯正の金具が光った。






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