ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
 
まいかねない気分だった。
『ジョン、さっきなんて言ったんだ、もう一回言ってくれよ』
 だけど、ジョンはもう口を開かないばかりか、僕がスポット溶接し続けていると、ジョンの顔が浮かんでいた丸くて、小さな銅の表面が溶けていって、泥水のようなのが、少しずつ溢れてきたんだ。そして、ジョンの顔はキリストの顔に変わってしまっていた。赤茶けた水はあふれ続け、キリストが血を流しているようで、僕はとまどってしまった。そのとき、僕は背後から声をかけられた。
『蘭野! だめじゃないか、水を出さないと!』って、班長だった。
 僕はハッとして、本当に水を出してなかったか確認した。たしかに班長の言うとおり、水を出してい
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