ジュリエットには甘いもの 中篇/(罧原堤)
、慣れたら慣れたで、なんだか単純作業をしているから退屈になってくるんだ。頭ん中で音楽を流してたりして暇つぶししてたけど、ある一時期ね、溶接冶具の底を見つめるようになってた。何でかというとね、溶接冶具の底の部分に電流が流れると、銅でできてるその底の表面の色が少し滲んだりして、人の顔のように見えてくるんだ。はじめはキリストやジョン・レノンのように見えていた顔も、どんどん溶接していってると、だんだんモナリザみたいに見えだしたりして、僕はそんな偉人たちの顔の上にナットを置いてスポット溶接していることが、ちょっと、悪いことをしている気分になってくる。でも彼らはすごくやさしくて、いつも僕の良い話し相手になって
[次のページ]
戻る 編 削 Point(0)