ジュリエットには甘いもの 前編/(罧原堤)
つものは神をおいてほかにいやしませんよ」
「悪い奴だな。その神ってのは」それから小声で、「……とくに牧神が」
男は批難するように私を見た。私の唇を。侮蔑するように、ながながと。
「俺の人格を疑うのか?」
「いいえ」──男は静かに言った。男は東から来たという。まるで激流だったという、彼の人生が。そう大洪水の流れに逆らって小船が進むごとくに。
「いろんな奴と出会いましたよ。いろんな奴がいた。誰とも信頼関係なんか築きやしなかったけど。まあ、だから俺は別にどんな考えを持った人だろうとたいして驚きゃしないんです。ただ、急場をやり過ごすには協力したほうがいいってだけで。互いにとって」
「どこまで
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