スカイ・フィッシュ/千波 一也
カラスアゲハの
遠慮がちな青みかたが
なんともいえず爽快だったから
ぼくは急いで
シャツを脱ぎ捨てた
もしかしたら肩甲骨あたりに
あるんじゃないかと思って
見落としてきた空への切符が
あるんじゃないかと思って
待っているんじゃないかと思って
遠慮がちに
爽やかに
だけれど
真夏の陽射しに明るいものは
いかにも生きものらしい
水の匂いだけで
ぼくは
なおさら
汗をこぼして
川沿いの
緑の向こうから
カメラのシャッター音が聞こえてくる
あれはたぶん
つばさを撮っているのだろう
無限のなかを過ぎていく
たった一度を
守っているのだろう
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