夏の完結/橘あまね
 
くもをたべる透明ないきものが
空に住んでいます
優しいナイフで切り開いて


あの日  歓声をあげて
逃げ水を追いかける
おさな子はぼくですね
ちっともつかまえられないのに
追いかけるのをやめないのは
母親の声が聞こえるからです
覚えたばかりの歩き方を
試してみたくて 仕方なくて
ふと見上げたら 木立のむこうに
今日と同じ空がひろがっていました


思い出の空も
ここで見上げる空も
色が同じだから
今がいつなのか
いつだって
わからないんです

くもをたべるいきものは
やがてすみかの空までたべて
あとには
ただひとつ
たったひとつの世界だけのこります
おわりにむかって形をかえていく
かりそめの世界


ガラス瓶に
陽射しを封じて
呼吸のしかたを忘れたときのために
取っておきます
ふたを固く閉めて
この夏が完結するときまで
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