お化け煙突とボロアパート/真島正人
 

何かが
飛び出てくる場所に
興味がある

そこから
甘い蜜ではない
古い記憶が
はみだしてこないかな
と待っている

ねじの止まった時計
小学校の教室の机
テニスラケット
しけったビスケット
そんなものが
女のどこかから
モノクロームの
フィルムの質感を伴って
ふるい落ちてこないだろうかと
手探りで
まさぐる

煙突なんか
消えてなくなればいい
町中全部入れ替わればいい
ここにいることが
なくなればいい……
とかつぶやいたりしながら

いまから
そこまでと
ここから
そこまでの距離が
均一感を失う
場所と時間が
反比例を引き起こし
僕は眩暈がする
それから
せみの鳴き声が
あまりにも耳障りで
目が覚めた
女は
部屋を出ている
買い物か何か
そういった
生活の腐臭のする
ささやかな雑用に携えられて……

僕の体は
寝ているあいだに
かいた汗でびっしょりだ
窓からは
相変わらずの
煙突が見えるのだろう
確かめたくなって
僕は
重たい体を起こす


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