鎮魂歌/薬堂氷太
 
穏やかな霧の中
ぼやけた残像、モノクロの景色

僕はそこで君を見た

手を伸ばしても、意識は遠い感覚の淵
走っても、どこまでも続く夢幻の霧

喉が枯れる勢いで、名前を叫び
君は気がつき振り向けば

見慣れた顔には一筋の涙


寂しげな表情


暗い目線


何か必死で伝えようとする君の声は
僕には届かず
もろく崩れる地面に足を取られ
君は淡い残像の中に消えていった


気がつけば見慣れた天井


夢の後味


君の写真


嗚呼、そうか
君は寂しさを伝えたかったのか

僕は
長い間、焦燥の日々で忘れていた過去を思い出した


日が落ち、伸びる枯れ木の陰の先
たたずむ僕の目の前には


赤い花束


君の墓
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