八月のエチュード/瀬崎 虎彦
美しい川岸で
誰かが旅立つのを
手のひらで水をかいて
ながめていました
生き物を売り買いして
霊長は得意です
深い洞の中に
暗い洞の中に
葦の茂みの中に
黒い茂みの奥に
戻れるだろうか
戻れるだろうと
嘘吐きのスダジイ
言葉を返さない
残響の深遠で
みすぼらしい神殿で
大得意 大得意 大得意
先見の明のない
僕たちは(わたしたちは)
腕で水をかいなで
深く沈んでいくようです
早くそこへたどり着いたものが勝ち
底へ
水の底は草原に似ていた
水底は懐かしい荒涼で満ち
暗愚なる人の子と人の親とが
手を取り合ってむくろになっています
ジジ
ジジ
ジジ
ギュエ
ギュエ
ギュエ
セミは短命ではない
生まれ変わってもセミにだけはなりたくない
けれど
もう一度人に生まれるなら
もっと賢い人間になりたい
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