ついえてゆく熾火/佐々宝砂
 
ほんとうのことは知らない
まつぼっくりがとても燃えやすいことは知っている
眠っていても
自分がものすごい勢いで回転していること
はるか遠い一点を目指して疾走していること
そんなことを知っている
でもそれがほんとうかどうか知らない

午前四時の空
木星と半月だけがあかるく
せめて琴座のヴェガでもみえないかと探しても
じきに朝が来て
木星の光も太陽の光に飲み込まれてゆくだろう

ほんとうのことは何ひとつ知らない
かなしみも
にくしみも
空腹も
疲労も

ここにあるのは
静かについえてゆく熾火
灰のなかで
わずか光るオレンジ色

それがほんとうなのかそれさえ知らない
ここにはきっとなんにもなくて
わたしという空虚を詰めた風船がふわふわして
わたしの意志にも
わたしの感情にも
全く何も関係ないまま

地球はまわり
太陽系は空の一点を目指して突進する

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