誕生日/麻生ゆり
今宵わたくしは清らかな月が照らす中で
静かに静かに死に向かうのでした
わたくしよりひとまわり大きなわたくしが
わたくしを殺しにくるのです
あぁ月が南中する…
時刻はまさに0時をまわるころ
大きなわたくしがやってきました
そしてわたくしの首を
そっと優しくしめてゆきます
徐々に徐々に気管がふさがれ
わたくしは声をあげることはもちろん
息をすることさえできなくなって参りました
でも仕方ないのです
わたくしもちょうど1年前の同じ時間
ひとまわり小さなわたくしを殺しました
そうしてわたくしは1年間わたくしを演じてきました
今はまさに交代のとき
わたくしの意識は
少しずつ首をしめられてゆく中で
だんだんと薄れてゆきます
そして新しいわたくしと同化してゆくのです
これがわたくしの最期の記憶
窓から差しこむ月の光が青かったことが
わたくしのわたくしたる意識に
しっかりと刻みこまれたのでありました
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