7月、八月/salco
 
額も赤ん坊の旨寝も
全てが記憶の黒点に殲滅する一瞬の朝(あした)
病床の祖父が粥を啜っていた美しい7月
懐かしい母のふっくりした手が髪を編んでくれた朝(あさ)
筋ばった項の父が、弁当包を持って省線脇の角を曲る
美しい7月



八月

死んだような昼下がり
幼稚園から帰った近所の
利かん気坊主の声だけが
南の空にむくむく聳える白い入道雲に跳ね返る
唯一の水しぶきである
八月は
子供時代の思い出の王国
あお青い栄華に満ちて汗の粒ほど数え切れない
光の粒子ほど捉まえ切れない速力の
笑声の距離ほどに

大人達と老人はカーテンを引いた冷気の中
小さな小さな右と左のスピーカーの間で
人類のレクイエムを聴いている、八月だ

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