イカロス/結城 希
求めなければ、
こんなにも苦しむことはなかったのに
そっと手を握る。
冷たく、無機質な手。
もう動くことのない手。
その手で、自らの頬に触れる。
夜は終わっていた。
私は立ち上がり、白衣の埃を払った。
カーテンを開く
うんざりするほどの眩しい光
雨上がりの水たまりに、遊ぶ少年たち
水滴に、陽光が乱反射する
私は熱いコーヒーを淹れ
彼女の隣の席に戻った
コーヒーを啜る
やわらかな微笑のまま、硬直した彼女
私もぎこちなく、笑おうとした
バイタルサイン、ゼロ。
自律制御プログラム、修復不能。
システム、再始動不可。
わかっている
イカ
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