名前/たもつ
僕の名前の近くに
誰か立っていた
漢和辞典を忙しそうにめくっていた
若い頃の父だった
僕の名前は祖父がつけてくれた
父はぼくの出産に立ち会わなかった
そういう時代ではなかった
自分の子どもだけではなく
孫たちの名前をつけるのも
祖父の仕事だった
祖父が他界してからは
それは父の仕事になった
僕のいとこの名前やその子の名前を
十数人つけた
もしかしたら父は
僕の名前もつけたかったのかもしれない
やがて父は誰の名前もつけなくなった
もうそういう時代ではないし
何より
自分の名前や
身の周りにいる人の名前だけで
精一杯なのだ
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